脳卒中とは
脳卒中は、脳血管が破れたり、詰まったりすることで、脳機能に障害が起こる疾患で「脳血管障害」とも呼ばれます。
厚生労働省の統計によれば、脳卒中は死亡原因としては、がん、心疾患に続く第3位(約11%)であり、要介護の原因となる疾患としては、第1位(約21%)です。ちなみに第2位が認知症(約15%)です。また、脳卒中を発症した場合、退院時点で約半数の方が死亡するか介護を要する状態となっていると報告されています。
このようにいったん脳卒中を発症すると、後遺症の残る可能性が高く、もとの生活に戻るのが難しくなります。日頃から、脳卒中にかからないよう予防に心がけるのがとても大切だということがわかります。
当院では、脳卒中予防について患者様それそれに応じた適切なアドバイスを提供することを心がけています。
脳卒中の種類
脳卒中は、発症の原因によって、「脳の血管が詰まるタイプ」と「脳の血管が破れるタイプ」の2つに区別されます。
脳の血管が詰まるタイプには、24時間以内に症状回復が見られる「一過性脳虚血発作」・「脳梗塞」があります。
一方、脳の血管が破れるタイプには、脳の細い血管が破れる「脳出血」・動脈瘤が破れてくも膜下腔に出血する「くも膜下出血」があります。
脳卒中の発症者の割合を見ると、脳梗塞が約65%、脳出血が約25%、くも膜下出血が約10%です。以前は脳出血が多かったのですが高血圧の管理がしっかりと行われるようになって脳出血の割合は減り、生活習慣病と密接な関係のある脳梗塞が増えてきたのが特徴です。
脳梗塞
脳梗塞はさらにラクナ梗塞・アテローム血栓性脳梗塞・心原性脳塞栓に分類されます。
ラクナ梗塞
大脳深部や脳幹の穿通枝領域に起きる直径15mm未満の小さな病変です。大脳皮質に病変がないので、意識障害や失語・失行などの皮質症状は見られません。軽度の片麻痺や感覚障害が主な症状です。高血圧を有する高齢者に多い脳梗塞です。
アテローム血栓性脳梗塞
比較的大きな脳動脈の動脈硬化(アテローム硬化)によって引き起こされる脳梗塞です。高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、大量飲酒などが動脈硬化を進行させる危険因子です。動脈硬化が同じく危険因子となる、冠動脈狭窄症や下肢の閉塞性動脈硬化症を合併していることも少なくありません。
心原性脳塞栓症
心臓疾患(非弁膜症性心房細動や最近の心筋梗塞など)により心臓内に形成された血栓が血流にのって脳動脈まで流れて血管を閉塞させてしまう疾患です。急激に発症し突発的に症状が完成するのが特徴です。側副血行路に乏しいため梗塞巣は大きくなりやすく、脳梗塞の主な3つの病型の中で最も重症で後遺症も残りやすい病態です。
加齢とともに心房細動の発症率は上昇していくので、人口高齢化に伴って心原性脳塞栓症は増加傾向にあります。心房細動を早めに発見して抗凝固薬内服を開始するのが予防として重要です。
一過性脳虚血発作
脳梗塞と似た症状が出現したものの短時間で症状が回復した場合には、一時的に血流が途絶えただけで運良く再開通した一過性脳虚血発作の可能性があります。厳密には、まだ脳卒中ではない状態ですが、この場合、症状は回復したとしても早期に脳梗塞を発症する確率が高いので、なるべく早く適切な治療を開始する必要があります。
脳出血
高血圧により徐々に血管が脆弱になって破綻する高血圧性脳出血(脳の深いところに好発)の他に、脳動静脈奇形・もやもや病などの血管異常が原因になることもあります。高齢者ではアミロイドβ蛋白が脳血管に沈着することによって血管が脆弱になり脳出血(主に脳表に近いところ)をきたす、アミロイドアンギオパチーという病態もあります。
くも膜下出血
次いで原因として多いのは、若年者に好発する脳動静脈奇形からの出血です。
脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血では、いったん症状が落ち着いたように見えても、動脈瘤の再破裂を予防する治療を行わなければ、高い確率ですぐに再破裂します。
以下の症状がある場合は、くも膜下出血の可能性が考えられるため、すぐに救急車を要請して脳神経外科のある救急医療機関を受診してください。
- 突然意識を失って倒れてしまう
- バットで殴られたような激しい頭痛
くも膜下出血を発症する危険性があるかどうかを知るには、頭部MRIで脳動脈瘤や脳動静脈奇形があるかどうかを調べるのが最も効果的です。特に、血縁者にくも膜下出血の既往がある場合は、脳動脈瘤の有病率が2−3倍高くなると言われているので、積極的に検査を受けることをお勧めします。
脳卒中の症状
脳の障害される部位によって、現れる症状は様々です。主に、片側の手足・顔半分の麻痺・しびれなどの症状のほか、以下の症状がある場合は、医療機関を受診してください。
- ろれつが回らない・言葉が出てこない・人の言っていることが理解できない
- 力があるのに立てない・フラフラする・歩けない
- 片側の目が見えない・視野の半分が欠ける・物が二つに見える・一時的に見えなくなる
- 感じたことのない激しい頭痛に襲われる
- 意識がなくなる
上記のうち、1つだけが出現することもありますし、重複して症状が出る場合もあります。
脳卒中を疑ったら
脳卒中の症状かもと思ったら、出来る限り早く医療機関を受診してください。なるべく早く診断・治療を行うことで、後遺症を軽減できる可能性が高くなります。また、脳卒中が疑われる場合は、身体を横にして脳への血流を維持するのが原則です。意識がない場合は、呼吸を楽にできる姿勢で、嘔吐物が喉に詰まらないように側臥位にして救急車を呼んでください。
特に、脳梗塞の場合は、発症後4.5時間以内、8時間以内にのみ行える特殊な治療があります(いずれも脳卒中救急医療機関での対応になります)。
突然、意識障害や手足の麻痺が出現したときには、すぐに救急車を要請して脳卒中救急医療機関へ搬送してもらいましょう。当院を受診されて診断された場合には、責任を持って医療機関へ搬送の支援をいたします。
検査・治療
問診・診察・心電図・血液検査・頭部CT・頭部MRI・頸動脈エコー・心エコー検査・胸部レントゲンなどを行います。治療は、点滴や薬物療法を主に行います。抗血栓薬で脳梗塞の症状悪化や再発を防ぎ、脳保護薬で神経細胞を保護します。また、抗脳浮腫薬で頭の浮腫みを改善していきます。それと同時に、血圧・脈拍・体温など全身状態を管理し、日常生活動作に有効なリハビリテーションも行います。
脳卒中の予防
脳卒中のうち、くも膜下出血の予防については、脳動脈瘤の有無を検査することがまず重要です。未破裂の脳動脈瘤は通常、自覚症状はありませんので、脳ドックで頭部MRI・MRAを撮影して確認するのがもっともよい方法になります。
脳梗塞と脳出血に関しては、生活習慣病と密接な関係がある危険因子をしっかりと修正することが重要です。5大危険因子と呼ばれているのは以下となります。
高血圧
脂質異常症
LDL(悪玉コレステロール)が高い人は、高脂肪食を控えてください。脂肪摂取量を抑えるために、油料理を減らしましょう。その他、イモ類・豆類・海藻・キノコ・根菜類などコレステロールを下げる食材を多く摂ってください。
不整脈(心房細動)
心臓内に血栓ができると、脳動脈を閉塞させてしまいます。この場合、抗凝固薬によって脳梗塞を予防できます。
喫煙
以上のほか、男性・肥満・高齢者・運動不足・過度の飲酒などが危険因子として挙げられます。
基本的な治療は、生活習慣の改善と食事療法です。それでも改善が見られない場合は、薬物療法を併用します。